台湾烏龍茶が大好きな私は台湾での旅の時間のほとんどを烏龍茶との出会いに費やしている。
もうひとつは人との出会い。
以前ブログにも書いたが、フランス人のMarineとの出会いも、運命の糸が何度も交差しているのを感じさせるような特別なものだった。
もしかすると非日常の旅先では、普段より少し心がひらいているのかもしれない。
そして、この時はお茶と人の出会いが交差した瞬間だった。
今回は、観光で訪れた台湾で唯物論者のわたしが悟りを開いた時のお話です。
台北に着いた次の日、私はさっそくお目当ての茶舗めぐりをしようと地下鉄MRTに飛び乗った。
その茶舗はMRTを降りてすぐのところにある。
ちらっと覗いてみると客は誰もおらず、店の階段に老女が座って暇そうにしていた。
初めて入るには勇気のいる雰囲気。
お腹もすいていたので、まずはそちらを満たしてから改めて向かうことにした。
戻ってみると結局店には誰もいない。
ただ、先ほどの老女は消え、試飲席に若い男性が座っていた。
意を決して中に入り挨拶をする。
どうやら店主のようだ。柔和なひとのようでひと安心。
棚を見ていると飲んでみますか?と試飲席にうながされた。
好みの味や品種を聞かれ、店主が選んだのは阿里山茶だった。
お茶を淹れながら、茶葉の生産地や栽培方法や肥料の話を熱心にしてくれる。
「どうぞ。」と出されたお茶を口にするとこくのあるまったりとした味がする。
私の好きな味。
ふと見た価格表で、かなりいいものを淹れてくれたのが分かった。
普段手を出さない、出せないような高級茶葉だ。
困ったように棚を見ていると、無理しなくてもいいですよという雰囲気が背中から伝わってくる。
ただ、身体によくて、おいしいものをつくりたいという店主の気持ちはわかったので、普段より少し奮発していくつかを購入した。
何事も経験だ。
会計を終えると、「烏龍茶が好きですか。」と店主に聞かれた。
大好きですと私は答えた。目がきらきらしていたかもしれない。
すると「なんで?」と聞かれた。
なんで?って?好きだから好き。
考えてみると、味が好きなだけではない気がする。
なんでだろう・・・。
そんな私を見て、店主は少し笑っていたと思う。
ぐるぐると考えている私に店主は、「もっといいの淹れてあげる。」とまた試飲席に促してきた。
棚にあった陶器の茶壷から茶葉を取り出し、またお茶を淹れてくれる。
店主は何も言わないが、おそらくこの店で一番高級なものだ。
私が最終的に購入したものを見たら、なんでこれを淹れてくれるのかわからない。
さっと湯を沸かし、慣れた手順でお茶を淹れる。
お湯が沸く音とお茶を淹れる音。
外の喧騒が別世界のように遠くに聞こえる。
「どうぞ。」と出されたお茶を口にする。
かなりこくのある、玉露に近いような・・・と感想を口にすると。
「考えない。感じて。」と言われる。
そういえば考えてばかりいたなあとまた考える私。
そして、感じ方を忘れてしまったかもしれないと心が慌てる。
そんな私の様子を見ながら、二煎、三煎とお茶を淹れる店主。
二煎目で不思議と身体がぽかぽかしてきた。胸のあたりからじんわりと肩まで熱くなってゆく。
高いお茶は何煎も出してもおいしいんだなあと感心していると、
「お寺とか神社、行く?」と店主が唐突に言い出した。
今では笑ってしまうが、当時私は無神論者、というか唯物論者。
目に見えるものしか信じていなかった。
でも、親や友人の付き合いで神社に行くことはあるし、台北で有名な龍山寺も観光で行ったことはある。
「龍山寺とか?まあ、はい。」と返事をすると、
「神様、忙しいからね。お願いしても助けてくれない。」とまた唐突に。
そもそも信じてないし、お願い事で神社に行ったのなんて高校受験が最後。
それも親に言われて渋々行ったのだ。
なかなか面倒な話が始まったぞとふんふんと聞いていると、さらに店主は「自分が神様だからね。本当は自分が神様。」と。
えっ?何?もしかして、宗教の勧誘?とまた頭をぐるぐるさせていると、そこへ「はるちゃん!」と友達が店に入ってきた。
この後は、近くの語学学校に通う友人と街歩きをして夕食を食べる約束をしていたのだ。
お手洗いを借りた時に、いる店を知らせておいて正直助かったという気持ち。
待ち合わせていたので、では、と丁重にお礼をし、そそくさと店を出る。
そんな私たちを未練もなく、「じゃ!」と送り出す店主。
もとの喧騒の中に戻り、私の頭は久しぶりの再会とお土産に何を買うかや夕食や他のわくわくで既に埋め尽くされていた。
友人と別れた帰り道、ふとお茶屋さんでのことを想い出した。
あれはなんだったんだろう。
考えてみたら、私なんて勧誘してもただの観光客だし、意味ないよね。
それより、烏龍茶。あのお茶おいしかったなあ。今まで一番。
もっと買っておいてもよかったな。
続
あと二記事くらいになりそうです。
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